妖怪と遭遇しないように気を遣ってくれた菖蒲は、人がふたり通れるだけの狭い裏道を選び、真司をあかしや橋の前まで送った。

「さぁ、帰りんしゃい」
「あの……ご迷惑をおかけして、すみませんでした」

 頭を下げる真司の頭を、菖蒲は撫でるように軽く叩く。

「気にすることはあらへんよ。ほな、また明日にな」
「はい」

 真司は返事をすると『あやかし橋』と書かれている橋へと1本踏み出した。
 すると、プレートの文字はゆらりと揺れ、あ〝や〟かし橋からあ〝か〟しや橋へと変化した。そして、辺りは霧に包まれ目の前に大きな鳥居がスーッと現れた。

 ――この鳥居って、あのときの……。

 霧がある中、不思議と鳥居とプレートの文字だけははっきりと見える。
 真司は「ここを通ればいいんだよ、ね……?」と呟くと、振り返らずに鳥居の方へと進んだ。
 その瞬間、最初に訪れたときと同様に霧は消え、辺りの風景は賑やかだった商店街から鬱蒼とした林に変化した。

 ――帰ってきた……。

 真司が一度だけ振り返ると、商店街は影も形もなくなっていた。
 改めて帰ってきたことを実感すると、真司は前を向き直り、再び暗い道を歩きだしたのだった。