「ん……ここ、は……?」

 目覚めた先には、見慣れぬ天井があった。

「えっと……?」

 ――僕、どうしたんだっけ……?

 自分はなぜ横になっているのだろうか? ここはどこだったっけ?と、しばし考えていると横から声をかけられた。

「おや? 目が覚めたかえ?」
「え? ……あ!!」

 真司の横で、ゆっくりと団扇を扇いでいた女性がニコリと微笑む。真司はその女性の顔を見て全てを思い出し、慌てて体を起こした。

「ふむ。すっかり元気になったようやの」

 女性は真司の体に問題がないことを確認すると、そう言った。

「あ、あなたは?! それに、こ、ここここって?!」
「少し落ち着かんか。〝こ〟がふたつ多いぞ? いや、三つかの? まぁ、よい。ここは、『あやかし商店街』にある私の家じゃ」
「商店街……や、やっぱり……噂は、本当だったんだ……」

 女性は真司の言う〝噂〟という言葉にピクッと反応すると首を傾げた。

「はて、噂? なんのことかわからんが、まぁそれはええとして。つかぬことを聞くが、お前さんは人間やね?」
「え? は、はい……」

 ぎこちなく返事をすると同時に、真司は女性の言葉に疑問を持った。

 ――あれ? 私の家? しかも人間かどうか聞くということは、この人って……。

「も、もしかして、あなたも妖怪?!」
「む? うーむ……まぁ、似たようなものじゃな」
「似たようなもの、ですか……?」

 真司は訝しげに女性を見る。
どこからどう見ても人間にしか見えないが、女性は自分のことを人間ではないという。過去に真司が見てきた人ならざるモノは、黒く歪なモノたちばかりだった。
 でも、この女性は気を失っている真司を助け、目が覚めるまでそばにいてくれた。
 本来なら警戒すべき場面だが、不思議と警戒心はなかった。

「そんなことより、なんで人間がこんなところに? 普通なら怖がるか逃げ出すんやけどなぁ。あぁ、でも、お前さんは気絶していたか、ふふっ。で、この商店街になにか用かえ?」
「え? あ、その……」
「ん?」

 女性は小動物のように首を傾げ真司の言葉を待つが、真司はなかなか言葉を出ずにいた。本当のことを言うべきか悩んでいるのだ。

 ――もし、それでこの優しい人が怪我でもしたら?

 真司は東京にいたときの出来事を思い出し、ギュッと目を閉じた。

「なんや? なんか訳ありって感じやねぇ。言うてみ?」

 女性が真司の肩にそっと触れ、優しく声をかける。
 女性は人間ではない……それでも、真司は自分が関わることで、この女性を傷つけたくないと思っていた。そして、自分も、もう〝あんな目〟に遭うのは嫌だと思った。
 だが、「この人なら力になってくれるかもしれない。それに、僕は誰かに相談するために、ここに来たんだ」と思い直し、真司は女性に事情を打ち明けた。