「俺、高校生だったお前には言えなかったことがいっぱいあった」
先生が先生ではない顔で喋りはじめる。
「お前は俺の大切な生徒だから放っておけなかったし、いつも気にかけた。でもそれが教師としてだけの感情だったかどうかは自信がない」
「………」
「正直、他の生徒にはない気持ちの動きを感じたこともあったんだ。でも、担任としてそれは正しくないと。お前の為にも突き放してやらないとって思ってた」
「……先生」
「教師と17歳の的井のあいだで俺も揺れてた」
あの頃の私は、近づいたと思ったら遠ざかっていく先生の背中ばかりを見ていた気がする。
先生は出逢った時から大人だった。
でもお酒が飲める、タバコも吸える年齢に私もなって、大人は子供が思うよりもずっと不完全だということが分かった。
だからこそ、愛しい人と支え合いながら生きていくのだと思う。
「先生。今も同じ10歳差です。二十歳の私とは恋愛できますか?」
言いながら、一筋の涙が頬を伝った。
先生は迷わずに私を抱きしめた。
最後の教室で感じた先生の温もりよりも、ずっとずっと熱かった。
「……先生、先生……っ」
私は先生の胸に顔を埋める。
「もうお前の先生じゃないよ」
「……じゃあ、なんて呼んだらいいですか?」
「これから一緒に考えていけばいいじゃん」
これからがあるんですか。
一緒にいてもいいんですか。
先生は相変わらず自分勝手で、なんでもひとりで決めてしまうから私はそのたびに振り回されてしまう。
でも、私は先生がこんなにも好きだ。
会えなかった間も先生のことが片時も頭から離れなかった。
心は全部、あの日から先生だけのものだった。
「的井、俺はお前のことが好きだ」
先生がまっすぐに私のことを見た。
「これから先、ずっと俺の隣にいてくれる?」
私はその言葉に、何度も何度も涙を拭く。
私は先生と生きていきたい。
10年でも20年でも30年でも。
いつか生徒と先生だった頃の話を懐かしくしながら。
「はい……っ」
麗らかな春。
先生と出逢った季節の中で、私たちは優しいキスを重ねた。
あとがきです。
まずは「先生と17歳のあいだ」をお読みいただきまして、本当にありがとうございました!
過去に先生と生徒ものの短編は書いたことがあったのですが、がっつりと長編として書いたのは今回が初めてでした。
そして初めてなことがもうひとつ。
私の作品では物語の季節が大体夏だけとか秋だけとか限定されてるものが多かったりするのですが、なんと本作は春夏秋冬の一年間。
最初から六花の17歳をぜんぶ書こうと決めてました。
なので予定よりもかなり時間がかかってしまい、300ページも越えましたが、改めて無事に完結できてよかったとホッとしています……。
先生と生徒の恋愛なので、少し甘い場面があってもいいのかなと思ったのですが、やっぱり私は青春寄りのほうが好きなようです。
純愛ものというよりは恋愛青春ものになりましたが、郁巳に恋をしたことで変わっていく六花の成長を楽しんでいただけたら嬉しいです。
2019年3月 永良サチ