以前リナが働いていた会社は、自然エネルギー関連の機器メーカーだった。
業界のなかでは大手であり、もともと自然環境問題に興味があったリナが就活したところ、奇跡的に内定をもらって新卒で入社した。
表向きはクリーンなイメージの会社だったが、いざ働いてみると、社内の雰囲気は最悪だった。
同期も上司も仲間というよりもライバルで、お互いを高め合うような関係ならまだしも、足を引っ張り合うような最低な関係だった。
リナは、会社の嫌な部分を見ないようにと、黙々と自分の仕事にだけ集中して、我慢してきた。
しかし同期の女の子のひとりが、厄介なことに部長に目の敵にされてしまったのだ。
あとから聞いた話によると、その子が部長の誘いを断ったという理由で、いじめのような陰湿ないびりを受けることになったらしい。
その子には手に負えないような仕事を押し付け、納期までにできないと、周りの社員の前で強く叱責した。
部長の態度を見て、部長に媚びを売る先輩社員たちも便乗してその子の悪口を言ったり仕事を押し付けたりした。
あまり関わらないようにしてきたが、リナの耳には周りの声が流れ込んできた。
部長の逆恨み、おもしろ半分で部長に追つい随ずいする人、そして、嫌だと思いながらも見て見ぬふりをする同期や先輩社員。
いい歳をした大人が! と、周りの大人たちに怒りを感じたとき、リナ自身も今の今までなにもしてなかったことに気付いてしまった。
そんな自分が急に恥ずかしくなり、リナは頭に血が上って、いつの間にか部長の前に立ちはだかっていたのだ。
そして部長が押し付けようとしていた仕事の書類をリナが受け取ると、それを思いっきり振りあげて背の低い部長の頭頂部めがけて振り下ろした。
スパーンと思いのほかに軽快な音が響き、職場中の視線を独り占めにしたなかで、部長のカツラの下にあった禿げ頭が出てきた。
「自分の仕事ぐらい自分でしなさいよ!このハゲ‼」
しんと静まり返った職場で、リナの罵声が響き渡った。