たしかに以前粟根から、あやかしの悩みも人とそう変わらないとは聞いていたが、想像以上に人と変わらない。
「じゃあ、ただ夫婦喧嘩をどうにかしてほしいっていう、相談なんですか?」と、リナが思わず口にすると、光子がその迫力満点な顔をさらにしかめて口を開く。
「ただの夫婦喧嘩なもんですか!この人ったら、喧嘩の途中で怒りに任せてむやみに雷を鳴らすんですよ!それをずーっと!」と、語気を強めて光子が語った話にリナは目を丸くした。
「そ、そんなに雷を鳴らしちゃうんですか!?」
リナがそう言ってちらりと吾郎のほうを見ると、吾郎は気まずそうにふいと視線を外した。
吾郎の反応を見ると、どうやら本当に雷を鳴らしてしまうらしい。
先ほどはあやかしの悩み事が夫婦喧嘩だなんて思ったより普通だ、などと思ったリナだったが、喧嘩で雷が鳴り響くなんて規模が違うと思い直した。
「雷が鳴るなんて、それは、怖いですね」
とリナが気遣わしげに言うと、リナの反応に満足したのか光子は少々機嫌をよくしたようで「そうなのよ」と少し表情を和らげて頷いた。
そんなふたりのやりとりをおもしろそうに見ていた粟根が口を開いた。
「なるほど。たしかに、雷を鳴らされたら怖いでしょうね。ちなみに、ふたりの喧嘩の原因を伺っても?」
と、粟根が興味深そうに目を細めて言うと、先ほどまで威嚇するような態度だった吾郎が、さらに眉間に皺を寄せた。
「喧嘩の原因なんて、その都度バラバラじゃし、覚えとらんな」
と歯切れの悪い吾郎を見て、隣の光子がまたしても顔をしかめる。
そして吾郎への不満を一気にまくし立てた。
「大体はこの人のだらしなさが原因ですよ。酒を飲んでは道端で寝るし、家事も一切手伝わないくせに、文句だけは一いち人にん前まえ!それでアタシがぶつくさ言うと、逆上してむやみに雷を鳴らし出すんですよ!」
光子の口はまだまだ止まらない。リナはその勢いに呆気にとられながら続きを聞く。
「先生は目の前で雷を鳴らされたことがあります⁉今まで、三百年も一緒に連れ添ってきた、自分の妻に対してですよ⁉ たまったもんじゃありませんよ! 本当に、この人は怒ってばかりで情けない鬼なんです。先生、お願いですからこの人の癇かん癪しゃくを治してください!」
と、もともと赤い鬼の肌をさらに赤くさせ、眉間に深い縦皺を刻み、燃え滾たぎる怒りを爆発させるかのように光子はまくし立てた。
「お、おでのせいだけじゃないだろ。み、光子がいつまでも、ちょっとしたことで、怒っとるから」
と大柄な鬼の吾郎が少々身を縮めて、情けなく眉尻を下げてぶつぶつと呟く。
その吾郎のグズグズした態度に、光子はさらに肩を怒らせた。
「ちょっとしたこと⁉アンタねぇ、そのちょっとしたことだって積み重なればちょっとどころじゃ済まないのよ! 大体アタシはねぇ、別にアンタのだらしなさにここまで怒ってるんじゃないのよ。逆上して、雷を鳴らすその馬鹿さ加減に呆れてるのよ。こんなか弱い女鬼に対して、雷を鳴らす鬼なんて……ウッ」
と、急に息が詰まったように、光子は顔を苦しそうに歪め、目から大粒の涙をぼたぼたとこぼした。
「ああ、どんなにアタシが怖い思いをしたか」
そう言って光子はしくしくと涙を流す。真っ赤だったはずの顔色が今は青ざめて見えた。
心を覗かなくとも、光子が本当につらいというのは、彼女の様子を見ているだけでわかった。
さめざめと泣き出した光子を見て、吾郎は弱り切った様子で申し訳なさそうに口を開く。
「雷を鳴らしちまうのは、悪いとは思ってるけどようでも、小さなことでいつまでもぐちぐち言われたってなぁ。さっきだって、ちょっと腰布そのまま放置してただけで怒るしよう。あれはあとで片付けるつもりで」
そうまごまごと不平を口にする吾郎に、先ほどまで涙をこぼしていた光子の目じりが急激に吊りあがった。
「じゃあ、ただ夫婦喧嘩をどうにかしてほしいっていう、相談なんですか?」と、リナが思わず口にすると、光子がその迫力満点な顔をさらにしかめて口を開く。
「ただの夫婦喧嘩なもんですか!この人ったら、喧嘩の途中で怒りに任せてむやみに雷を鳴らすんですよ!それをずーっと!」と、語気を強めて光子が語った話にリナは目を丸くした。
「そ、そんなに雷を鳴らしちゃうんですか!?」
リナがそう言ってちらりと吾郎のほうを見ると、吾郎は気まずそうにふいと視線を外した。
吾郎の反応を見ると、どうやら本当に雷を鳴らしてしまうらしい。
先ほどはあやかしの悩み事が夫婦喧嘩だなんて思ったより普通だ、などと思ったリナだったが、喧嘩で雷が鳴り響くなんて規模が違うと思い直した。
「雷が鳴るなんて、それは、怖いですね」
とリナが気遣わしげに言うと、リナの反応に満足したのか光子は少々機嫌をよくしたようで「そうなのよ」と少し表情を和らげて頷いた。
そんなふたりのやりとりをおもしろそうに見ていた粟根が口を開いた。
「なるほど。たしかに、雷を鳴らされたら怖いでしょうね。ちなみに、ふたりの喧嘩の原因を伺っても?」
と、粟根が興味深そうに目を細めて言うと、先ほどまで威嚇するような態度だった吾郎が、さらに眉間に皺を寄せた。
「喧嘩の原因なんて、その都度バラバラじゃし、覚えとらんな」
と歯切れの悪い吾郎を見て、隣の光子がまたしても顔をしかめる。
そして吾郎への不満を一気にまくし立てた。
「大体はこの人のだらしなさが原因ですよ。酒を飲んでは道端で寝るし、家事も一切手伝わないくせに、文句だけは一いち人にん前まえ!それでアタシがぶつくさ言うと、逆上してむやみに雷を鳴らし出すんですよ!」
光子の口はまだまだ止まらない。リナはその勢いに呆気にとられながら続きを聞く。
「先生は目の前で雷を鳴らされたことがあります⁉今まで、三百年も一緒に連れ添ってきた、自分の妻に対してですよ⁉ たまったもんじゃありませんよ! 本当に、この人は怒ってばかりで情けない鬼なんです。先生、お願いですからこの人の癇かん癪しゃくを治してください!」
と、もともと赤い鬼の肌をさらに赤くさせ、眉間に深い縦皺を刻み、燃え滾たぎる怒りを爆発させるかのように光子はまくし立てた。
「お、おでのせいだけじゃないだろ。み、光子がいつまでも、ちょっとしたことで、怒っとるから」
と大柄な鬼の吾郎が少々身を縮めて、情けなく眉尻を下げてぶつぶつと呟く。
その吾郎のグズグズした態度に、光子はさらに肩を怒らせた。
「ちょっとしたこと⁉アンタねぇ、そのちょっとしたことだって積み重なればちょっとどころじゃ済まないのよ! 大体アタシはねぇ、別にアンタのだらしなさにここまで怒ってるんじゃないのよ。逆上して、雷を鳴らすその馬鹿さ加減に呆れてるのよ。こんなか弱い女鬼に対して、雷を鳴らす鬼なんて……ウッ」
と、急に息が詰まったように、光子は顔を苦しそうに歪め、目から大粒の涙をぼたぼたとこぼした。
「ああ、どんなにアタシが怖い思いをしたか」
そう言って光子はしくしくと涙を流す。真っ赤だったはずの顔色が今は青ざめて見えた。
心を覗かなくとも、光子が本当につらいというのは、彼女の様子を見ているだけでわかった。
さめざめと泣き出した光子を見て、吾郎は弱り切った様子で申し訳なさそうに口を開く。
「雷を鳴らしちまうのは、悪いとは思ってるけどようでも、小さなことでいつまでもぐちぐち言われたってなぁ。さっきだって、ちょっと腰布そのまま放置してただけで怒るしよう。あれはあとで片付けるつもりで」
そうまごまごと不平を口にする吾郎に、先ほどまで涙をこぼしていた光子の目じりが急激に吊りあがった。