権之助の姿が見えなくなると、粟根が窓の扉を閉めた。

「もっとゆっくりしたかったですが、来てしまうものは仕方がありません。リナさんも、同席してもらいますからね?」

 粟根にそう言われて、これから相談するために患者様が来るのだということを思い出した。

 リナにとっては初めての仕事である。
 粟根が「どうせ来るのなら出迎えましょう」と言い、リナたちは受付で雷様の到着を待つことにした。

「リナさん、見慣れないあやかしを見ることになると思いますけど、倒れたりしないでくださいよ?」
「だ、大丈夫ですよ。たぶん」

 粟根に言われたとおり、妖怪図鑑で予習はしているので大体の妖怪の姿はわかっているつもりだった。

「まあ雷様の見た目は、迫力こそありますが人間に似ている部分もあるので、リナさんなら大丈夫でしょう」

「雷様というとつまり、雷を落としたりする、あの鬼のあやかし、ですよね?」

 どちらかと言えば神様のような存在なんじゃないだろうかと、リナは、自身が知る雷様を頭のなかでイメージした。

 図鑑にも載っていた気がする。
 角の生えた鬼で、顔はかなりの強面、ヒョウ柄の服を召していて、太鼓を持っている、そんな定番な姿を思い浮かべる。

 たしか人間の子供のおへそが好物だという話が図鑑に載っていたような気がすると、リナは急いで雷様の情報を思い起こしていた。

「そのとおりです。雷様としてお勤めしている鬼族のことを一般的にそう呼びます」
「雷様っていうのは役職的なものだったんですか」

 というか、そんな雷様はいったいどんな悩みを持っているというのだろうか。
 ついに初仕事。しっかり働けるのだろうか。
 そう思うと、リナに緊張が走る。

 リナはそわそわと落ち着かない様子で窓の外を眺めた。

 ゴロゴロという雷の音がどんどん近づいてきている。「近いな」と粟根が言うやいなや、相談所の扉が勢いよく開かれた。

 そこには、これぞ鬼! という迫力ある出で立ちのふたりが立っていた。

 体つきからして男と女の鬼のふたり組で、先ほど権之助が話していた喧嘩をしているという雷様の夫婦で間違いないだろう。

 男のほうの大柄な鬼は、真っ赤な体にヒョウ柄の腰布を巻いて、頭に二本の角を生やしている。
 髪型はパンチパーマだ。
 もう片方の女の鬼は、少々小柄で同じく真っ赤な体に二本の角、胸ははちきれんばかりの迫力で、その胸と、腰より下をヒョウ柄の布で隠しているような格好をしていた。

 思い描いていた姿と同じ鬼らしいファッションに、リナは恐怖よりも感動を覚えて口元に手をやる。
 思わずすごいと感嘆の言葉が口から出そうになっていた。