「うん、浅木先生なの」

 がん、と頭を殴られたような衝撃が走った。

「きゃーっ、そうなんですか!? 浅木先生ったら何も教えてくれないから! ちょっともう、浅木先生~!」

 菓子先輩が嬌声をあげて、カウンターにいる浅木先生を呼ぶ。浅木先生はしきりに照れていて、柿崎先生と親しげな微笑みを交わしあっていた。

 ああ、ほんとに、この二人は恋人同士なんだ……。子供も作って、結婚も約束して、私には想像もつかないくらいの高いところにいる、大人の関係なんだ……。
 この二人を見ていると、私の淡い片思いなんて、取るに足らない道ばたの石ころみたいに思える。
 柿崎先生の指に光っているダイヤモンドに比べたら、あまりにもぶかっこうで、幼稚で、安っぽい――誰かに蹴飛ばされたら消えてしまいそうな、私の恋。

 菓子先輩がお手洗いに立って、私は柿崎先生と二人になった。何か話さなきゃと思っているのに、言葉が何も出てこない。笑顔も作れない。きっと先生は不審に思っている。

「小鳥遊さん。お祝いしてくれてありがとう」

「い、いいえ……」

「ごめんね。嫌な思いさせて」

「いえ、先生が不安で内緒にしていたのは、仕方ないと思います。みんな先生の具合が悪いのかと思って心配していたから、説明したらきっと安心します……」

「そうだったのね……。ありがとう。でもそれだけじゃなくて、こんなところで打ち明けてしまってごめんなさいね」

 先生の申し訳なさそうな、心配そうな表情を見てはっとした。柿崎先生はきっと、私が浅木先生を好きだったことを悟ってしまったんだ。

 誰にも言えなかった私の恋。同じ相手に恋してる人だから、気付かれた。だってきっと、私が浅木先生を見る瞳は、かつて柿崎先生にもあったものだから。