二日目。変わらず非常階段でお弁当を食べていた私を、百瀬先輩が当たり前のように迎えに来た。ミルクスープは優しい味でおいしかった。クラムチャウダーに似ているけれど、もっと軽めでいくらでも飲めちゃう感じ。味付けに味噌を加えるとまろやかになるそうだ。

 三日目。自分から調理室に行ってみた。先輩は嬉しそうな顔で迎えてくれた。今日はオニオングラタンスープだった。フランスパンにスープがしみしみでチーズがとろとろで、すごくおいしかった。玉ねぎは、前日の夜に何時間もかけて炒めたそうだ。部活でこんなに手のかかるものを作るのかと驚いた。百瀬先輩は、部活というよりほとんど趣味のようなものだから、と微笑わらっていた。

 四日目。放課後になると先輩が教室まで迎えに来た。なんでクラスが分かったのか尋ねると、一組からしらみつぶしに探していったらしい。メニューは豚汁だった。たしかにこれもスープだけど。豆腐が包丁を使わず手で崩してあって私好みだった。今日もおいしかった。

 五日目。朝登校すると、なぜか百瀬先輩が教室の前で待っていた。

「朝からどうしたんですか!?」

 先輩の容姿は目立つので、通りがかる生徒がみんなちらちらと見ていく。

「こむぎちゃんに渡すものがあって。はいこれ」

 やたら大きい、魔法瓶のようなものを渡された。

「何ですか、これ」

「スープジャーなの。中にスープが入っているから、お昼休みに食べて欲しいの」

「放課後じゃダメなんですか?」

「朝早く起きて作ったのよ~。どうしても放課後までに感想が聞きたいの! 放課後は違うものを用意しておくから、絶対食べてね! あっ、中身はカレー風味のスープよ!」

「えっ、ちょっと……!」

 引き留める間もなく先輩は去って行ってしまった。先輩に気付いた一年生が道をあけるので、廊下が割れた海のようになっていく。百瀬先輩はモーゼだったのか、とその光景をぼんやり見送った。