pale‐greenの扉の前で、大きく深呼吸する。二年生になってから来るのは初。

 柿崎先生は二月から産休に入り、春休み中に元気な女の子を産んだ。娘の名前はくるみちゃん。こむぎとくるみ、なんだかペアっぽくて嬉しい。
 くるみちゃんの写真を見せてくる浅木先生の顔はデレデレで、これはそうとう娘に甘いパパになるぞと、かつての恋心をなつかしく思う。

 あの日のあと。浅木先生に菓子先輩の味覚が戻ったことを話すと、とても喜んでくれた。菓子先輩が教師を目指すということも。「採用試験や教育実習の相談なら乗ってあげられるし、やっと教師っぽいことをしてあげられるなあ」と笑っていた。

 今日は部活勧誘会がうまくいった報告と、太巻きの相談にのってもらったお礼を言いに。そして柿崎先生とくるみちゃんの近況も聞きたかった。

「こんにちは~」

 厚い木の扉をぐっと押すと、軽やかなベルの音がいつも通り迎えてくれる。

「ああ、こむぎちゃん、いらっしゃい」

「いらっしゃいませ~!」

 そして、浅木先生の爽やかな声もいつも通り……。

「えっ」

 いつも通り、じゃない。

 浅木先生の声に重なって聴こえてきた、甘くてやさしい、お菓子みたいな声。

 ふわふわの笑顔の菓子先輩。が、なぜかカフェの制服を着て浅木先生の隣に立っていた。