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「こむぎちゃん、部活勧誘会、おつかれ~!」

 調理室に入ると、みくりちゃんにハイタッチをされた。菓子先輩がいなくなってから、どことなく殺風景になってしまった私たちの部室。

「め……っちゃ緊張したんだけど」

「いやいや、舞台袖で見ていたけど、だいぶ度胸あったよ。やっぱ部長にまかせて正解だったね~」

「来年は二人ともステージに乗せてやる……」

 四月。私たちは二年生になった。みくりちゃんと柚木さんとはクラスが離れてしまったけれど、自分でも驚くほど新しいクラスでも楽しくやっている。

 今日は新入生に向けての部活勧誘イベントがあった。体育館のステージで、部活ごとにいろんなアピールをするんだけど……。

「時間制限が三分だからって、本当に三分クッキングするとはね~。これで新入部員もだいぶ入ってくるんじゃない?」

「ほんとほんと。太巻きを切ったときの歓声、すごかったもんね~」

 断面が桃の絵になる、金太郎飴的な太巻きをステージで作った。具材をのせて巻くだけとは言え、新入生全員に見られている中で料理するのは緊張して、へんな汗をかいてしまった。

「春休み中に特訓したかいがあったよ」

 ストップウォッチで計りながら何本も太巻きを作った日々が思い起こされる。

「で、今日の部活はどうする? こむぎちゃんも疲れてるだろうし、反省会だけで終わりにする? 仮入部期間は明日からだし」

「そうしてもらえると助かるかな。今日は行きたいところもあるし」

 二人に戸締りをまかせて昇降口から出ると、春の風がスカートを揺らした。

 もう、一年たつんだな――。

 うすく霞がかったような、春の空気。陽射しもなんだか、桃色が混ざっているような気がする。

 ぴかぴかの制服に身を包んだ新入生をまぶしく思いながら、私は歩きなれた道を、あの場所に向かって足を進める。