“現実”を見るのは怖い。
だけどそれ以上に、みんなの姿が見たい。
顔を上げ、窓の向こうに視線を伸ばした。空は暗く、霧のような小雨が降っている。
「入りますね」
私は震える足を大きく一歩、二歩、と前へ進めた。
すると——
キーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴り始めた。
私は顎に力を入れ、まっすぐ前を見据え続けた。頭上の壁掛け時計から放たれる強烈な光が教室全体を覆う。
束の間、何も見えなくなった。めまいがし、がくん、と身体が揺れた。
視界が開けると、空っぽだった教室が3年1組の生徒たちで溢れていた。あちこちから話し声や笑い声が聞こえてくる。
目だけ動かして、おそるおそる時間割黒板に書かれている日付を確認した。
【10月19日 木曜日】
やっぱり日付が一日進んでいる。
心臓の鼓動が速くなり、焦燥感が全身に広がっていった。