スマホで時刻を確認すると、9時30分だった。


雨で自転車は使えないから、今日はバスで行くしかない。


時刻表を調べてみると、前のバスはちょうど出てしまったところで、次は一時間二十分後だった。


こんな片田舎に住んでいるにもかかわらず、いまだに車の免許を取っていない。


家から勤め先のスーパーまでは歩いて十分もかからないし、大学を中退してからは、その二箇所を往復するだけの毎日だったから、免許の必要性を感じたことすらなかった。


車を運転できないと不便だと言う人たちの気持ちが、今ならほんの少しだけわかるような気がした。






二時間後。


私はふたたび松下先生と一緒に、3年1組の教室の前に立っていた。


先生が不安そうにこちらを見下ろしているけれど、私はその視線に気づかないふりをした。


教室の中に入ろうとしても、なかなか一歩が踏み出せない。


昨日のことを誰も覚えていなかったら、と思うと足がすくんだ。未来が変わっていないということは、ほぼ間違いなく記憶がリセットされてしまっている。