「この十二年、つらかったよな。寂しかったよな。ごめんな、ひとりにして」
優しい声だった。優しすぎて、ほとんど聞き取れなかった。
自分の中でばちん、と何かが音を立てて弾け飛んだ。熱いものが、めまぐるしい勢いで全身を駆け巡る。
「うん、すごくつらかった。寂しかった。お願い、もうひとりにしないで」
唯人は机の上に広げてあった修学旅行の冊子を閉じ、表紙に黒の油性ペンで大きく
『行くな! 行ったら事故に巻き込まれて死ぬ!』
と書き込んだ。
そしてそのまま自分の机に『明日の自分へ』と書き始めた。
10月18日。
今日、十二年後の未来からリリが来た。
修学旅行の日、リリ以外の全員が、バスの事故に巻き込まれて死ぬ。
リリは昨日もおとといも俺たちに『修学旅行に行くな』って伝えに来てくれたのに、俺たちの記憶は一日でリセットされてしまうらしく、昨日のことを誰も覚えていない。
修学旅行に行くな!
とにかく行くな!