「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。7時半までには戻ってきてね」
「はい」
私が歩き出すと、信広さんも歩調を合わせて歩き始めた。新校舎の玄関を出て、旧校舎に向かう。
信広さんは相変わらず黙ったままだった。
何か深く考え込んでいるみたいだけど、何について考えているのかまでは読み取れなかった。
旧校舎の裏口の鍵を開けて中に入り、階段を上っていく。校舎の中は静まり返っていて、外で鳴いている蝉の声と、私たちの靴音以外は何も聞こえない。
私は3年1組の前で立ち止まり、鞄の中から何枚か新聞のコピーを取り出した。
その新聞記事には、十二年前の10月25日に、梢田中学の生徒たちを乗せたマイクロバスが高速道路で大事故に巻き込まれ、乗員乗客全員死亡した、という内容が淡々と綴られている。
最後の最後にもしかしたら奇跡が起こって、過去が変わるかもしれない……
そんな期待をしているわけではなかった。私はただ、過去は変わらないのだということを、この目に焼き付けたかった。