信広さんの運転する車に乗って、学校に向かった。自転車だと十五分以上かかる道のりも、車だとあっというまだった。


玄関のベルを鳴らすと、松下先生がスリッパの音を立てながら現れた。


「凛々子さん、おはよう」

「おはようございます」

「いよいよ明日だけど……大丈夫そう?」

「はい」


明日は旧校舎の取り壊しの日であり、修学旅行の日でもある。すなわちみんなと会えるのは、今日で最後……


「ねぇ、母さん」


重くなりかけた空気を振り払うようにして、信広さんが明るい声で言った。


「旧校舎の鍵、貸してくれない? 今日は俺に任せて、母さんは仕事しててよ」

「ふたりだけで大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「そう……。じゃあ、これ」


先生は持っていた旧校舎の鍵を、信広さんに手渡した。