「俺は今日の放課後に渡すね」
唯人は私の前に立ち、土曜日のことなんてこれっぽっちも覚えていないような、いつもと変わらないあどけない笑顔を浮かべて言った。
「とびっきりのプレゼントを用意したから、楽しみにしてて」
知ってる。
知ってる……
そのとびっきりのプレゼントが何なのか。
私は知っている。
そのとき交わした会話のひとつひとつも、記憶に深く刻み込まれていて、まるで昨日のことのように思い出せる。
ふいに、記憶の扉が勢いよく開け放たれた。
十二年前の10月23日——
誰もいない放課後。教室の片隅で、私と唯人は向かい合って立っていた。
「リリ、改めてお誕生日おめでとう」
唯人が私に、小さな紙袋を差し出してきた。
「開けてみて」
「うん!」
紙袋から箱を取り出し、そっとふたを開けてみた。箱の中には、白鳥の絵が彫られた指輪が入っていた。