私は熱々のたこやきにふーふーと息を吹きかけてから、ぱくりとかじった。トロッとした中身が、口の中に広がって溶ける。


「うわぁ、美味しい」

「こういうのってお祭りとかで食べると、よりいっそう美味しく感じられますよね」

「本当ですね」


私たちは口の中のたこやきを同時に飲み込み、微笑み合った。


ゆるやかな風が吹き渡り、信広さんの黒い髪がさらさらと音を立てて揺れた。屋台の方から漂ってくる料理の匂いに混じって、爽やかな石鹸の香りが鼻先をかすめる。


この人と話してると、心が落ち着く。


柔らかい表情と喋り方が松下先生に似ているからかな。


私が十二年前の事故でクラスメイトを全員失っていることを知っていて、気を使っているからなのか、私の過去やプライベートについては、何ひとつ聞いてこない。


私も私で、信広さんにプライベートな質問はいっさいしなかった。


天気の話とか、感動した本の話とか、他愛のないお喋りをしているだけなのに、会話のひとつひとつが草原を吹き渡るそよ風のように優しい。