「私も今、信広さんとまったく同じことを考えていました。信広さんの話はよく先生から聞いていたので、会ったことないのに昔から知っているような気がします」

「俺のこと、母から聞いてたんですね。なんか恥ずかしいなぁ。うちの母、変なこと言ってませんでした? たとえば俺が活字中毒で、休みの日は家に引きこもって本ばっかり読んでるとか」

「ふふっ、その話は聞きました」

「ほら、やっぱり」


信広さんは肩をすくめて先生の方を見た。


「だって本当のことじゃない。仕事で朝から晩まで文字とにらめっこしてるのに、休日まで一日中本を読んでるなんて、完全に活字中毒者よ。それも重度の」

「ははっ、確かにそうかもね」


信広さんの知的な顔に、ふわっと笑みが広がった。笑うと翳りが遠のき、光が差したようになった。


そのとき、彼の右手の薬指に指輪がはめられているのに気がついた。


先生から信広さんは独身だと聞いていたけど、結婚していないだけで、付き合っている人はいるのかな?