唯人はさっき鞄に仕舞ったプリントと、数学の教科書を取り出して机の上に広げると、すぐに取り掛かり始めた。


「俺、頑張るから。絶対にリリと同じ高校に合格してみせるから」

「唯人……」


鼻の奥がつんと痛くなった。




子供が大好きな唯人。


勉強はあまり得意じゃないけど、私と同じ高校に合格するために、そして将来は小学校の先生になるために、一生懸命勉強していた。


結局私は、唯人と『合格しようね』と約束していた高校に行くことはできなかった。


受験の日、一問も解けずに全教科白紙で提出してしまった。提出したテスト用紙はすべて涙で濡れていた。


私も唯人と一緒に、同じ高校に通いたかった。先生になって、子供たちに囲まれている唯人の姿が見たかった。




「うーん、この問題ってこの公式使うんだっけ?」


唯人の長い人差し指が、すっと教科書をなぞった。


「えっと、これは……」


もう何年も見ていない公式や数式が並んでいる。でも不思議とどれも覚えていた。