「お父さん、お母さん、ありがとう」
「こちらこそわざわざ雨の中、差し入れを持ってきてくれてありがとう。あとで休憩のときにいただくよ」
「あの、私、ちょっと買いたいものがあるんだけどいい?」
「もちろん。何が欲しいんだ?」
「透明な袋とリボン。今日焼いたクッキー、お世話になってる松下先生にもあげたくて」
「そうか、そうか。きっと先生も喜ぶぞ」
お父さんは小さな目を糸のように細くして微笑んだ。私も同じように目を細めて微笑み返した。
ふいに、入り口のガラス戸から明るい日差しが差し込んだ。
ガラス越しに空を見上げると、分厚い雲を押しのけるようにして、太陽が顔を覗かせていた。
陽光を浴びた霧雨は、まるで空の上から撒かれた金粉のように、きらきらと輝きながら宙を舞っていた。