「おはよう、凛々子さん。今日もひどい雨ね。濡れたでしょ?」
「いえ、案外大丈夫でした」
「ならよかった。天気予報だと明日には天気が回復するみたいね」
「そうですね」
話はあまり弾まず、すぐに途切れてしまった。
会話がなくなると、重い沈黙が私たちの間に沈み込んできて、ちょっと息苦しく感じた。
先生は右手に持っている旧校舎の鍵をぎゅっと握り締めた。
「……行く?」
私は小さくうなずいた。
「毎日毎日、すみません」
「ううん、いいの」
先生は眉を下げて微笑むと、スリッパを脱いでパンプスに履き替え、傘立てに差してある苔色の傘を手に取った。