先生は少し考えるような間を置いてから、小さく顎を引いた。


「わかったわ。じゃあ私は職員室に戻ってるから、何かあったら遠慮せずに呼んでね」

「ありがとうございます」


先生は扉の前で立ち止まり、私の方をちらっと振り返った。こちらを見つめる瞳は不安定に揺れている。


先生は薄く唇を開いた。でも、何も言わなかった。


私が軽く頭を下げると、先生はぎこちない会釈を残して、そのまま教室を出ていった。


先生の足音は遠くなっていき、やがて聞こえなくなった。誰もいない教室には、雨粒が窓を叩く音だけが静かに響いている。


私は窓辺に近づき、灰色の雲を見上げた。


本当はもう、ここに来るべきじゃないのかもしれない。


過去に戻ったところで、この悲惨な運命は変えられない。


前日の出来事はすべて完全にリセットされ、日付だけがどんどん事故の日に近づいていく。