レナードはしばらく沈黙してから不満を吐き出すように息を吐き、それから強張った笑みを浮かべてみせた。

「そうだな、満室ならば仕方がないな。今日のところは諦めよう。いや、クレッグ家としては、繁盛している事を喜ばなくては」


既にミント村リゾートは自分の管轄下のような口ぶりだ。

やはりライの言っていた通り、今後は当たり前に運営に口出ししてくるつもりなのだろう。

舌打ちしたい気持ちをなんとか隠し、私はニコリと笑って答える。

「ありがたい事にお客様がたくさん来てくれています。とても順調で何も問題はありません。レナード殿はクレッグ本家の経営でお忙しいでしょう? こちらのことは一切お気になさらずに」

“余計な口出しはするな”

言外にそんな気持ちを込めたけれど、レナードは察しが悪く、むしろ嬉しそうな表情になった。

「エリカは優しいな。僕の身体気遣ってくれるかんて……あんなことが有った後なのに」


いや、あなたの身体などどうでもいいです。
そう言いたい気持ちを、顔を引きつらせながら耐える。

いくらなんでも前向きに受け取り過ぎでしょう。

聖人でもない普通の私が、裏切り者の元婚約者になんて優しくするはずないって、分からないのだろうか。

嫌味だって通じないし、レナードってこんなに察しが悪かった?

それとも、都合の悪い事は気付かないふりをしているとか?

警戒しながら様子を伺っていると、レナードが突然立ち上がって言った。

「予定は変更だ。エリカ、村とその周辺を案内してくれないか?」

「え?……もう見て回ったのではないのですか?」


私の事を馬で探し回っていたくらいだから、狭いミント村周辺なんて、把握済みなのでは?

だけど、レナードは否定して来た。


「実際住んでいるエリカに案内して欲しいんだ」

「でしたら、誰か適任な者を案内につけます。私は仕事があるので、ここを離れる訳には……」

「コンラード! エリカの仕事を頼む。少し遅くなるかもしれないから」


レナードは私の言葉を遮り勝手に話を進めていく。
その強引さを不快に感じていると、ぐいと腕を掴まれ引きげられた。


「え? ちょっと、何するの?」

急なことに取り繕っていた事も忘れ、取り繕った敬語が抜けてしまう。

レナードは、僅かに顔を歪めながらも、私の腕を離さないまま言った。

「さっきも言っただろう? 村を案内して欲しいんだ。小さな領地の視察も当主代行として大切な仕事。そして現当主の娘の君は協力する義務がある」

「……義務って」


なんて強引なのだろう。
だけど、そう言われてしまえば無碍に断る事は出来ない。

私は重い気持ちで立ち上がる。

レナードに促され、部屋を出る。

私の直ぐ後ろにライが付いて来ているのに気付き、レナードが思い切り顔をしかめる。