「どうしたの?」

「話の内容は、あいつ自らがミント村の施設の経営に参画するという宣言だと思う」

「えっ、どうして?」

「エリカの話だとクレッグ本家の経済状況はあまり良くないって事だった。あいつは次期当主として、傾いた財政を立て直そうとしているんじゃないか? その中で急激に成長しているこの地に目をつけた」

「そんな! 急に来てそんな事言われても困る。レナードを共同経営者にするつもりはないわ」

実家を盛り立ててくれるのは嬉しいけど、個人的にレナードと関わるのは嫌。

だいたい将来的にレナードの世話になりたくないから、仕事をしようと思ったのだ。

私は自立していたい。
この先も、レナードとエミリーの世話になんて決してならない。

それは私の小さなプライドだ。
一から作り上げた居場所をレナードに渡したりしない。


だけどライは困った様子で首を振った。


「エリカが拒否をしても、ここはクレッグ子爵家の領地だから、最終的には当主代行のあいつの意見が通る。ミント村も、そこに建つ宿もエリカのものではなく、クレッグ子爵本家のものだから」

「つまり、私たちの温泉リゾートすら次期当主のレナードのものと言うこと?……そんな事って……」

あり得ないと思う。だけど、法律はそんな感情論は通じないしときに理不尽だ。
どこに不満を訴えても、最終的にはきっとライが言っていた通りになってしまう。


「レナードになんて、絶対に渡したくないのに」

青天の霹靂だった婚約者と実の妹の浮気と婚約破棄。

人生設計の変更を余儀なくされ、そんな中見つけた大切な仕事まで取られてしまうなんて……怒りが込み上げてきて、私は手をきつく握りしめた。

「ごめんな、予想出来た事なのに、もっと早く対策するべきだった」

ライはそう言いながら、私の手首をそっと掴む。

「手を開けよ。爪で傷いてしまうだろ?」

慰めるように言われ、私は大人しく手から力を抜いた。


「対策しようがあったの?」

「ああ。コンラードさんとも少し話してたんだ。けどその手はあいつが権利を主張するより前に行わなくてはならなかった事で今となっては使えない。何か別の方法を考えないとな」

「そう……」

「ごめんな、もっと早く言っておけば良かったな」

「ライのせいじゃないわ。私なんて対策どころかレナードの事を思い出す事も無かったもの」


「……とにかく、コンラードさんとも相談して何とかしよう。あんまり悩むなよ」

「悩むなって言われても難しいけど、でもレナードになんて負けないわ」


強気で言うと、ライは口角を上げて笑った。

私も釣られて少し気持ちが和む。

ライがいてくれて良かった。お陰で落ち着くことが出来たから。