「あれがエリカの元婚約者か……なんて言うか、想像していた通りだな」

「え、本当に?」

私の話だけで当てるとは、ライの想像力はなかなかのものだ。

「言動が予想通りで……神妙な顔でいるのが大変だった」

「そうなの? 全然態度に出てなかったけど。でも大人しくしていて正解ね。ついニヤニヤしたりなんてしたらレナードは怒りそうだもの」

「そうだな、神経質そうだった。エリカは怒られたことがあるのか?」


ライは荷物をまとめ帰り支度を進めながら言う。

「そう言えば直接文句を言われた事はない。そもそも会う機会も少なかったから、喧嘩するほど関わりも無かったわ」


婚約者とは名ばかりの希薄な関係。
私の誕生日にだって、プレゼントを家人に届けさせるだけで、本人は来なかった。

プレゼントに添えてあるメッセージカードは、あからさまな定型文で、心なんて篭っていない。義務としてやっていただけなことが明らかな、やる気のない対応。

まあ、私の方も似たようなものだったからレナードを責めることは出来ないし、今までのプレゼントは、ミント村リゾートの貴重な経営資金となっているので、むしろ感謝をしないといけないかもしれない。


そんな事を考えている内に、テキパキと帰り支度を整えたライに促され歩き出す。


「あーあ、レナードが待っていると思うと、帰るのが憂鬱だわ」

愚痴を言うと、ライは苦笑いになった。

「随分嫌っているな」

「そりゃあね、事情は話したでしょ?」

「ああ」

「それに今思うと性格も嗜好も何もかもが合わないのよ。レナードも私を嫌っていると思うわ」

「……それはないと思う」

「え?」


急に声が小さくなるから聞こえなかった。
聞き返しても、ライは話題を変えてしまう。

「あの次期当主殿はこの村の状態に関心を持って、やって来たようだったな」

「そうね、そんな事を言ってたわ。今までこの村の事なんて見向きもしなかったのにね。私が関係しているのが不満なのかしら? 何か文句を言いたいとか?」

わざわざ外出先にまで馬で追いかけて来るくらいだ。執念を感じる。


「不満と言うより、把握しておきたいんだろう」

「どうして? レナードには関係ないじゃない」


そう言うとライは急に真面目な顔になった。