「クレッグ家の管理をしているは分かりましたけど、私にはどのような用で?」

「エリカ、まずは館に戻らないか? ここでは落ち着いて話せない」


落ち着いて話、なんてしたくないけど、確かにここで長々と立ち話をしているのも嫌だし、渋々頷く。

「わかりました。では領主館で落ち合いましょう」

そう言うとレナードは、意外そうに目を瞬いた。

「一緒に行こう。確か相乗りは出来ただろう?」

レナードは、そう言いながら私の手を引こうとする。
指先が触れてしまい、嫌悪感が湧き慌てて腕を引っ込めた。


「私は歩いて帰るから先に行って」

「どうして? ひとりじゃ危ないだろう?」

真面目な顔で言うレナードに、呆れてしまう。

「ひとりじゃないわ。ライがいるでしょう?」

初めから私の隣に立っていたのだから、見えないはずがないのに。

レナードはわざとらしく、今気付いた様子を見せた。

「ああ、そう言えばそうだ……彼はエリカの従者かな? 見たことがない顔だけど」

「彼はライと言って、私の護衛とリゾート運営を助けて貰っているのよ。だから話を聞くときは同席するわ。ライ、こちらはアクロイド侯爵家のレナード殿。妹の婚約者よ」

ライの事だから、言わなくても既に状況は察しているだろうけれど、あえて紹介する。

そうしないとレナードは、ライを使用人だと下に見て、嫌な事を言う恐れがあるから。


レナードはライを値踏みするように見ると、思った通り横柄に言った。

「エリカの護衛ご苦労だな。これから励むように」


どうやらレナードはライが気に入らないようだ。対してライは表面には何も出さずに、礼をした。

レナードは護衛ふたりを引き連れ、私達が気になるのか、ときどき後ろを振り向きながら、領主館の方向へ向かって行った。


彼らの姿が遠くなると、私は盛大な溜息を吐いた。

「ああ、疲れた」