なぜここにレナードがいるのだろう。

二度と関わりになりたくないくらいだったのに、こんなに間近で見ることになるなんて。

ああ、このまま無視してやり過ごしたい……でも、放置は無理よね。

どう見ても私を探している。
仕方ない。

凄く渋々と木の陰から出て行く。
すると、レナードは気配を感じたのか振り返り、私の姿を認めると、唖然とした様に口を開いた。

「エ、エリカなのか?」

信じられないと言った様子のレナード。
自分から会いに来たくせに何なのその態度。


「もちろんそうです。レナード殿はなぜこちらに?」

煩わしさを感じながら、他人行儀に声をかけるとレナードは戸惑いを浮かべながらもゆっくりと近付いて来た。

「なぜって、もちろんエリカに会いに来たんだ」

「……私に何か御用ですか?」

つい顔をしかめてしまう。
浮気され、裏切られた事などとうに吹っ切れたと思っていたけれど、そうでもない。まだ会うには早かったようだ。


「エリカが領地経営で多くの収益を上げていると聞いて、様子を見に来たんだ」

「領地経営?……温泉リゾートのこと?」

「温泉リゾート?……それは君の建てた宿泊施設の名前かい?」

「そう言うわけではないけど、宿の事をなぜレナード殿が気にするのですか?」

レナードなんかに立ち入って欲しくない。少し不快に感じていると、彼は微笑みを浮かべた。

「今、僕はクレッグ家に入り、子爵に代わり采配を振るっているんだ。エリカは聞いていなかったかな?」

「お父様の下で勉強をしているとは聞いていたけれど……」

レナードの口ぶりでは、既に実質の経営権を得ているようだ。
お父様は、早くもとって代わられたのだろうか。

レナードは不誠実だけど、お金の管理は得意だそうだし、丼勘定のクレッグ子爵家の財政を立て直そうと彼なりに頑張っているのかもしれない。

それは当家としては良いことだ。
感謝しないといけない。

だけど、私の温泉とは全く関係ないと思うんだけど。