「な、何?」

この辺りの村人は馬に乗らない。
旅の人? それにしては街道を外れたこちらに近付いて来ている様な気がするのだけれど。

キョロキョロと辺りを見回していると、ライが駆け寄って来て隣に立った。

「エリカ、こっちに」

そう言うと私の手を掴み、強引とも言える力で引っ張っていく。
そのまま近くの大きな木の陰にふたりして身を隠した。

その間にも蹄の音はどんどん近づいて来ていて、ついに遠くその姿を見えるまでになっていた。

「ミント村の方から来ているわ」

こんな何も無いところにわざわざ来ると言うことは、私達に用があるのだろうか。

だけど一体誰が?

ライが警戒するのも分かる。
全く予想がつかないのだ。

「エリカ、まだ顔を出すなよ」
「うん」

彼に従って大人しくしていると、騎乗の人達の声が聞こえて来た。

「この辺りにいるはずだ。探してくれ!」

命令調のその声には聞き覚えがあった。

私は息を呑み、恐る恐る様子を伺った。

木の陰からは、三頭の馬が見える。どの馬にも男性が乗っており、中央の馬に乗るのは、金髪の貴公子然とした青年だった。

……やっぱり。

どんよりとした気持ちになりながら、私の隣で油断なく様子を伺うライの袖を軽く引っ張った。

「どうした?」

「あれ、私の元婚約者」

果てしなく憂鬱な気持ちになりながら告げると、ライは目を見開いた。