噂を間に受けるのは良くないけど、結構真実だったりもするものだ。

聞いておいて損はない。

「 サウラン辺境伯家の御令息が、行方知れずとの事です。お城ではちょっとした騒ぎになっているそうですよ」

「ええ? 次期辺境伯様が居なくなってしまったという事?」

それは、大事件だ。

トレヴィア王国でも屈指の大貴族であるサウラン辺境伯家。
その後継者なら誰かに連れ去られてしまった恐れもある。

あまりに物騒な話に、嫌な気持ちになる。

「行方が知れないのは、弟君の方だそうですので次期辺境伯様ではありませんが、とても優秀な方の出奔に皆で不安になっているようです」

「出奔って自分で出て行ったの?」

「はい。その様に言われております」

拉致された線は消えたけれど、それにしても不可解な事態だ。
恵まれた身分を持つ辺境伯家の御令息が、どうして家を飛び出したりするのだろう。

「確か、オリバー様とおっしゃったわよね?」

私は直にお会いしたことは無いけれど、クレッグ子爵家の女主人になる者として、国内の大貴族のご家族については、勉強していた。

それによると、サウラン辺境伯様にはふたりの息子と、ひとりの令嬢がいる。
長男はアウレート様、次男はオリバー様、そして、長女はジェリーナ様というお名前だ。

今回問題になっているオリバー様は、私より三歳年上の二十二歳。

とても優秀な方で、辺境伯領の名家の令嬢達の憧れの的だとか。

沢山の人に将来に期待された方なのだ。

それなのに出て行ってしまうなんて、一体何が有ったのだろう。

「みんな心配しているでしょうね」

「はい。辺境伯家は捜索の手を広げているようです」

「それならこの辺りの人通りも増えそうね」

「そうですな。お嬢様も用心して下さいよ。出奔とされていますが、あくまで噂なので実際何が有ったのか分かりませんから」

「ええ、分かってるわ」

と言っても、小さな子爵家の娘の私が狙われる事なんとないと思うけど。

頼りになる護衛もいるし大丈夫。

「モリスこそ帰り道、気をつけてね」

「はい。しかしここはとても過ごしやすい。ますます帰るのが嫌になりますな」

苦笑いをしながら言うモリスに、私は首を傾げた。