恵まれた将来の立場を捨てても手にいれたい恋。
そうなのだとしたら、私が何を言ってもきっと無駄だ。

前世と同じ。どんなに説得しても、もうレナードの気持を動かす事は出来ないのだろう。

苦々しい気持ちになりながら私は答えを待つ。
気まずそうな顔のお父様は、小さく頷いた。

「……そうですか。そこまでの気持なら仕方がないですね」

思ったよりも普通の声が出たのでほっとした。

取り乱すところを誰にも見せたくなかった。

お父様に心配をかけたくないし、騒げば周りは同情してくれるかもしれないけれど、その分私は惨めになる。

レナードの事を深く愛していた訳じゃない。

彼との婚約は家同士が決めた事だし、婚約後も強い絆を築けた訳ではなかったから。

それなのに胸が痛いのは、私はまた選ばれなかったのだと実感しているからだ。

前世の恋人も今の婚約者も私ではなくて、他の女性を選んだ。
それも、私にとってとても身近な女性たち。似たような環境の中、どうして私は選ばれないのかと悲しくなり、孤独を感じる。

「エリカ、大丈夫か?」

お父様が黙り込んだ私の顔を覗き込んで来る。
私は小さく息を吐くと、強張った顔に無理やり笑みを浮かべてみせた。

「大丈夫よ、お父様。それより婚約解消の事は分かりました。それからレナードがエミリーと結婚をするのなら、予定通りクレッグ子爵家を継げばいいと思うわ」、

「な、何を言うんだ? そんな事をしたらお前の立場が無くなってしまう」

お父様は顔色を無くして言う。
私の事をとても心配してくれているのが伝わって来て切なくなる。

だけど、お父様はエミリーの親でもある。同じくらいエミリーの今後についても案じているはずだ。