「カミル、お前、どういうつもりだ?」
ライが、凄みをきかせてカミラさんを壁際に追い詰めていた。何に怒っているのか知らないけど、逃す気は無いとでも言うように、片手を壁について逃げられないようにしている。
カミラさんは女性にしては長身だけど、ライはもっと長身だ。
そんな相手に逃げ場もなく迫られたらすごく怖いはず。
私は慌てて部屋に突入した。
「ライ! 何してるの?」
私の声に、ライはハッとした様子で、カミラさんから体を離す。
「カミラさん、大丈夫ですか?」
心配で彼女に近寄り問いかけると、カミラさんは優雅に微笑み頷いた。
「ええ、大丈夫です。エリカさん心配して下さったの?」
「はい。それはもちろん……」
答えながら、内心首を傾げていた。
カミラさん、少しも怖そうにしていない?
落ち着き払っていて、むしろ私の方が慌てている……これってもしかして。
不意に、膨大な前世の記憶の一部が脳裏に浮かんだ。
どこで見たのかは分からないけれど、男性が意中の女性に強引に迫るシーン。そう、まさに今のライとカミラさんのような……。
もしかしたら、ライとカミラさんがしていたのは、恋人同士の喧嘩で深刻度はゼロだったとか?
むしろ盛り上がっていたの?
私は先走ってふたりの邪魔をしてしまったの?
よく考えたらライがか弱い女性を脅したりする訳がない。それは出会ってからの彼を見れば明らかで……。
突然気まずくなり、私は手に持っていたお茶の乗ったトレーをテーブルに置くと、「失礼します」と曖昧に笑ってその場からそそくさと逃げ出した。