今、私の前で泣く妹も、あの時のふたりと同じ事を言う。
ただ好きになってしまっただけなのだと。

本気でそう思っているのだろう。

けれど、悪気が無いからと言って許される事なのだろうか。

私はまた黙って諦めないといけないの?


「お姉様ごめんなさい……ごめんなさい……」

エミリーは、大粒の涙を流し続ける。

その悲しげな様子を言葉なく眺めていると、お父様が遠慮がちに声をかけてきた。

「エリカ……その、レナード殿の事で話があるんだ」

「話?」


お父様はエミリーに部屋を出るように言い、彼女が居なくなると私を心配そうに見つめて言った。

「エリカ、今から言うことを落ち着いて聞くんだよ」

「……はい」

「レナード殿のアクロイド侯爵家より、正式に申し入れが来た」

「申し入れ……どのような事でしょうか?」

嫌な予感に苛まれていると、お父様は私の手にそっと触れながら切り出した。

「エリカとレナード殿の婚約を解消したいと……レナード殿の妻にはエミリーを迎えたいそうだ」

私は大きく目を見開く。
浮気はされたけれど、まさか婚約解消まで話が進むとは思っていなかったから。

なぜならレナードと私の婚約は、両家にとって有意義なもの。

我がクレック子爵家は血筋正しい後継者と有力な縁戚が出来るし、レナードは三男の生まれでありながら子爵家当主になれるのだ。

だからエミリーを愛し、側におきながらも私と形だけは結婚すると思っていた。それなのに……。

「……レナードは本当に婚約解消を望んでいるのですか? クレック子爵家を継ぐ事を諦めるのですか? そこまでエミリーを?」