「追い出された訳じゃないわ。後継を妹と代わったのも、家を出たのも私の意思よ」

「なんで? エリカはそれでいいのか?」

ライがまるで自分が傷付いているかの様に言う。

「ベストでは無いけど、王都に留まって新たな婿探しをするよりはいいと思ったの。それにクレッグ子爵家にとっては、アクロイド侯爵家と縁が出来るのはとても良い事よ」

「そうだとしてもエリカの犠牲の上じゃないか」

ライは納得出来ないのか、眉間に縦皺が寄っている。

「今となっては犠牲とも思ってないわ。結果的には良かったから。このミント村で温泉を見つけられたし、これからのリゾート作りの事を考えると楽しみだもの」

「……けどここに居たら婚約者探しが出来ないだろう?」

ライが気まずそうに言う。なるほど、彼が一番心配しているのはその事なのか。確かに私は適齢期真っ只中。と言うか貴族的にはそろそろ行き遅れの年頃だ。

「心配してくれてありがとう。でも、社交界に出て婚約者を探すつもりはないから大丈夫」

「探すつもりは無いって……」

「アクロイド侯爵家から婚約破棄された上に、クレッグ家の後継の立場が無くなった私に、良い条件の婚約話は来ないわ。私も無理して探す気は無いの。妥協して結婚なんてしたくないしね」

前世を思い出した為か、その気持ちがとても強い。世間体を気にして結婚をする気にはどうしてもなれないのだ。

「この先どうする気なんだ?」

「どうするって結婚のこと? さあ、このまま独身かもしれないし、誰かと結婚するにしても政略結婚は無いわ。その辺はあまり考えてないの、今は結婚よりミント村の改革の方が興味あるから」

ライは気の毒そうな目を向けて来るけれど、私としては清々しい気分だった。