ライの疑問は最もだった。
貴族令嬢が田舎の領地でウロウロしているのだって不審なのに、更には私財を投げ打ってリゾート地を作ろうとしているのだから。

流石にはっきりとは口にしなかったけど、結婚はどうするんだよ? って思っているはず。

私の年頃なら婚約者がいる場合が殆どだし、そうでないなら積極的に社交界に出て、未来の旦那様を探している。

どう返事をするか決めかね、私は黙り込む。

ここに来た理由を説明するのは、嫌な事を思い出す事になる。なるべく話題に出したくない。

けれど、ライの気持ちもよく分かる。

一緒に働く相手の事を何も知らないのは、モヤモヤとして落ち着かない。私もそれでライの事情を追求したのだから。

少し悩んだ末、簡単にだけど事情を説明する事にした。

私は顔を上げライと視線を合わせた。

「隣に座って」

「え?」

「今から私がここにいる事情を説明するから。はっきり言って嫌な思い出話になるから、一度しか言いたくないの。聞き逃さないようにしてね」

そう言うとライは私の隣に腰を下ろした。
私は小さく息を吐いてから、語りだす。

「では話すわね……ええと、まずは私の家の事情からになるのだけど、我がクレッグ子爵家には男子がいないの。子爵の子供は私と妹のエミリーだけ。だから私が婿取りをして家を継ぐ予定だったわ。相手も決まっていたの、アクロイド侯爵家の三男で、うちより遥かに身分も地位も高い家の人よ」

「……エリカには婚約者がいたのか」

ライは珍しく動揺した様に言う。

「なんでそんなに驚くの? もしかして婚約者がいる様には見えない?」

「いや、そう言う訳じゃないけど……」

「まあ、半分当たっているわ。婚約解消になって結婚の予定は無くなったから」

「婚約解消?……どうして」

「婚約者が私の妹と恋仲になってしまったから」

サラッと言ったつもりだったけど、ライは今度こそ本当に驚きの声を上げた。

「はっ? 嘘だろ?」

「本当。二人の仲はかなり深くて別れられないみたいだった。侯爵家から正式に私との婚約解消を言われたわ。だからクレッグ子爵家は妹達が継ぐ事になったの。私はその気まずい環境から逃げてここに引っ越して来たのよ」

「エリカは婚約者に裏切られた挙句、家を出されたってことか?」

ライが怒りを露わに言う。
元々美形だからか怒った顔は凄みがある。
そう言えばライがこんな風に怒る顔を見るのは初めてだ。