「なあ、聞こえてるか?」

「えっ? ごめん考え事していて聞こえて無かった。もう一度言って」

ライは何か言いたそうにしながらも、私を非難する事はなく、二度目であろう台詞を口にした。

「当分、温泉に行くのは止めた方がいい」
「えっ! どうして?」

「危険だからだ。さっきの奴らがまた来るかもしれないだろ? あいつらはエリカが領主の娘と聞いても頭を下げなかった。それどころか攻撃的な態度を取って来た。次に会ったら何をされるか分からない」

「確かに私に恨みでも有りそうな雰囲気だったけど。ライが護衛してくれるんだから大丈夫じゃないの?」

そう言うと、ライは呆れたような顔をした。

「楽観的過ぎるだろ? 待ち伏せされたり罠を仕掛けられたりしたらどうするんだよ? しかもエリカは裸に近い格好でお湯に浸かる気だろ? あんな姿じゃいざという時動けない」

「そのいざと言う時の為に、裸はやめてお風呂用の服を着ているんだけど」

「おい……まさかあのまま逃げる気か?」

「そうだけど。さっきも思ったけどライは意外と頭が固いのね」

これではコンラードと変わらないではないか。

「俺の頭が固いんじゃなくて、エリカの感覚が変なんだよ、本当に貴族令嬢なのかって疑いたくなるくらいだ」

「何よそれ。正真正銘クレッグ子爵の娘ですけど?」

「だったら、温泉とやらは諦めろよ。いくらエリカでも男に襲われるのは嫌だろう?」

「まあ……それは嫌だけど」

せっかく見つけた温泉を諦めるのは嫌だ。

だけど、ライの言う通り、あの男達はヒステリックで危なかった。
ライが居なかったら酷い目に遭っていたかもしれない。

「諦めるしかないのね」

楽しみを失ってしまった。「はあ」と溜息を吐き、地面に目を向ける。

どこか別の所に温泉があればいいのに。

そう思った瞬間、再びあの力の抜ける感覚が襲って来た。
だけど、今度はさっきよりずっと強い。

勢いよく遠くまで意識が地中を探っていく。

「えっ? ちょっと待って」

慌てて探るのを止めようとするけど上手く行かず。
全ての力が無くなった私は、またライのお世話になる事になった。