カップに入っていたのは、温められたミルク。
蜂蜜が少し入っているようで、ほんのり甘い。

「美味しい……蜂蜜入れてくれたのはお父様?」

「そうだよ。エリカは子供の頃から甘いものが好きだからね」

「うん……ありがとう」

心も体も温まり、ゆったりとした気分になっていると、慌ただしい足音が聞こえて来た。

扉が遠慮なく開かれるのと同時に甲高い声がした。

「お姉様!」

現れたのは、妹のエミリー。

私が見たことのない豪華な赤のドレスを身に着けている。金髪、緑目の華やかな容姿にとても良く合っていた。

エミリーは可愛い。あと数年もすれば誰もが振り向くような美人になるだろう。
無邪気で愛想が良いから、初対面の相手にもすぐに好かれる。

けれど私にとっては、今、最も会いたくない相手のひとりだ。
顔を見た途端に、気を失う前に見た光景が脳裏に浮かび、とても嫌な気持ちになった。

そんな私の気持ちを察する様子もなく、エミリーは興奮気味に声を上げる。


「お姉様! 良かった、寝たきりと聞いて心配していたのです。頭の怪我は大丈夫なのですか?」

私は「はあ」と大きな溜息を吐き、手にしていたカップをサイドテーブルに置くと、エミリーを冷めた目で見つめながら言った。

「大丈夫よ」

「良かった! お姉様に何かあったら私、とても悲しいもの」

「そう。心配かけてごめんなさいね」

心にもない台詞だったからか冷たい声が出てしまった。エミリーの表情が曇る。

「お姉様……もしかして怒っているの?」

全く悪意のない顔。
私がどうして機嫌が悪いのか、本当に分からないように見える。

「なぜ分からないのか、疑問だわ」

「 お、お姉様?」

棘のある声に、エミリーが戸惑いを見せる。
その様子を見ていると、なんだか攻撃的な気持ちになった。

「ねえ、そもそもの怪我の原因、忘れてしまったの?」

「え? あ、あの……」