「ラ、ライ……下ろして?」

前世を思い出し精神年齢が上がった私は、多少の事では動揺しない……はずだったのに、ライに抱き上げられたこの状況に慌てふためいてしまう。

だってこんな事されるの、前世を含めても初めてなんだもの。

気恥ずかしさで顔を赤くする私とは対照的に、ライは何も感じていないようだった。

素早く辺りを見回すと、日陰になっている大きな木に向かい、私をそっと降ろした。

それから、先程放り出した荷物を拾いに行くと、中から水入れを取り出し、蓋を開けて私に渡して来た。

「大丈夫か?」

「大丈夫、ちょっと目眩がしたんだけど、治って来てる」

「どこか悪いのか?」

ライが心配そうに眉をひそめる。

「いいえ、こんな事初めて……地中の水源を探す話をしていたでしょう? そんな事出来るのかな?って地面を見た途端、変な感覚になったの。多分無意識に地中を探ってたんだと思う。だけどどうして目眩がしたのか分からない」

ライは難しい顔をしていたけれど、私が話し終える頃にはほっとした表情に変わっていた。

「それは一気に力を使い過ぎたからだろう。サウランにいる時仲間がそれで倒れたことがある。燃料切れみたいなものだから休めば治るそうだけど、エリカは今まで経験無かったのか?」

「無いわ。日常生活で【精霊の加護】を使う事はほとんど無かったから。だけどこれからは気をつけなくちゃね」

なぜ突然、水源探しが出来るようになったか分からないけれど、私がその力をコントロール出来ないのははっきりとした。

どこか、安全な場所を確保して練習しなくては。
今のように目眩を起こしていては、外出も
ままならないもの。

「ねえ、ライ。今度練習に付き合って」

ライは当然とばかりに頷き、それから少し眩しそうに目を細めて私を見つめた。

「やっぱりエリカは水の鑑定士なんだな」

初めて見る表情についどきりとしてしまう。護衛が美形すぎると、精神的に落ち着かないかも。

私はさりげなく目を逸らして、水を一口飲んだ。

朝、汲んだであろうそれは、まだヒンヤリとしていて美味しかった。