長い長い夢を見た。
それはひとりの女性の人生で、何枚もの絵を見ているように断片的な光景が、次から次へと流れて行く…………目が覚めたとき、私は前世の人生を思い出していた。
◇◇◇
いきなり、知らない世界の膨大な記憶を持ってしまった私は、大いに混乱した。
自分がおかしくなってしまったのではないかとすら、疑った。
けれど、本能的には理解していた、そして受け入れていた。私の記憶はゆめでもなんでもなく実際有ったものなのだと。
私が混乱から立ち直った頃、お父様が部屋に駆け込んで来た。
「エリカ!」
ベッド脇に跪くと、いかにも善良そうな緑色のつぶらな瞳で見つめて来る。
お父様は貴族としては失格な程、裏表がない性格だ。
駆け引きは無理。競争も苦手。
その為、貴族社会での地位は低い。
商売を始めるような才気も無く、我がクレッグ子爵家は小さな領地からの収入のみで細々と暮らしていた。
「エリカ、本当にもう大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ、お父様」
そう答えて起き上がろうとすると、お父様は慌てた様子で私を止める。
「エリカ、まだ寝てないといけないよ。三日も寝込んでいたんだからね。温かい飲み物を作らせたんだ。これを飲んでもう少し休んでいなさい」
そう言いながら、湯気の立つカップをそっと差し出してくれる。
「分かったわ。ありがとう」
私は温かな気持ちになりながら、それを受け取った。
お父様はいつだって優しい。私達家族の事を想ってくれている。
当主としてはイマイチだけど、とても良い父親だと思う。
それはひとりの女性の人生で、何枚もの絵を見ているように断片的な光景が、次から次へと流れて行く…………目が覚めたとき、私は前世の人生を思い出していた。
◇◇◇
いきなり、知らない世界の膨大な記憶を持ってしまった私は、大いに混乱した。
自分がおかしくなってしまったのではないかとすら、疑った。
けれど、本能的には理解していた、そして受け入れていた。私の記憶はゆめでもなんでもなく実際有ったものなのだと。
私が混乱から立ち直った頃、お父様が部屋に駆け込んで来た。
「エリカ!」
ベッド脇に跪くと、いかにも善良そうな緑色のつぶらな瞳で見つめて来る。
お父様は貴族としては失格な程、裏表がない性格だ。
駆け引きは無理。競争も苦手。
その為、貴族社会での地位は低い。
商売を始めるような才気も無く、我がクレッグ子爵家は小さな領地からの収入のみで細々と暮らしていた。
「エリカ、本当にもう大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ、お父様」
そう答えて起き上がろうとすると、お父様は慌てた様子で私を止める。
「エリカ、まだ寝てないといけないよ。三日も寝込んでいたんだからね。温かい飲み物を作らせたんだ。これを飲んでもう少し休んでいなさい」
そう言いながら、湯気の立つカップをそっと差し出してくれる。
「分かったわ。ありがとう」
私は温かな気持ちになりながら、それを受け取った。
お父様はいつだって優しい。私達家族の事を想ってくれている。
当主としてはイマイチだけど、とても良い父親だと思う。