私が見ほれている事に気付いていないライは、空っぽになった水入れを未練がましく振っている。
そんなちょっと情けない態度に美形オーラが緩和された気がして、私はようやく声をかけることが出来た。

「ライ、出発の準備が出来たら言って」

私の声に反応して、ライが振り向く。
同時に輝くような笑顔をみせた。

「エリカ、このお湯凄く気持ちがいいな。最高だったよ!」

綺麗な笑顔についどきりとしてしまいそうになる気持ちを抑えて答える。

「でしょ? 温泉って言うのよ」

「温泉?……サウラン辺境伯領でも聞いたことがないな?」

ライは首をかしげる。
それはそうだろう、多分この世界にそんな言葉は無いだろうし。


「まあ、なんでもいいか。とにかく良かったよ」

言動から、ライは細かい事は気にしない性質のようだ。


「身体の疲れも取れた気がする」

「え、本当?」

独り言のような呟きに私は食いついた。

今日は元々この温泉の効能を確認したかったのだ。

私以外の人の、変化や感想を知ることが出来るのは嬉しい。

「ああ、怠かったのが嘘みたいだ」
「そうなの……」

疲労回復効果?
美容効果はどうだろう? 元を知らないから判断がつかない。

まあ、それはおいおい確認していこう。

「そろそろ出発しましょう」