「あ、ああ、分かった」

ライは戸惑った様子ながらもそう答えたのを聞くと、私は岩場に置きっぱなしにしていた布を拾い上げた。

私の髪を拭いてしまったからちょっと湿っているけど、我慢して貰おう。

それから鞄から最後の水入れを取り出して、中身がちゃんと入っている事を確認してから言った。

「村に行く前にそこで体を洗って」

「……は?」

ライは信じられない事を言われたとでも言うように、私を見つめて来る。

「汚れが酷いからこのまま村に行ったら怪しい人と思われるわ。そこのお湯は安全だから中に入って体を洗って。終わったらこの布で拭いてね……服は仕方ないわね」

綺麗に洗った後に汚れた服を着るのは嫌だけれど、替えがない。
けれと、ライが気にしているのはそこでは無かったようだ。

「……このお湯大丈夫なのか? 変な臭いがしたけど」

さっきからのライの態度が腑に落ちた。
彼はこの温泉が良くないものだと思っているらしい。

この温泉自体の匂いは強くないけれど、真水とは違うものね。
ライはそういった匂いに敏感なのかもしれない。

私は彼を安心させる為、言った。

「大丈夫よ。私もさっきまで入っていたけど、この通り何の問題もないわ」

「入ってた? ここに⁈」

ライは大袈裟なくらい驚く。

まあ、貴族令嬢の行動としてはあり得ないので、当然の反応かもしれないけど、だんだんとやり取りが面倒になって来た私は、強引に彼を岩場に押しやった。