「そう言えば名乗ってもいなかったな。無礼な真似をして悪かった……俺の名前はライ。サウラン辺境伯領の中央都市で水脈の発掘や水路の建設について学んでいたが、トラブルが起きて中央都市にいられなくなった。仕方なく故郷に帰ろうとしたところを襲われて荷物を全て奪われてしまったんだ。おかけで一文無しだ」

「辺境伯様の領地で盗賊が出たの?」

ライはこくりと頷く。

珍しい事もあるものだ。辺境伯領には屈強な騎士が大勢いて、領地を守っているから盗賊も近寄りがたいところのはずなのに。

「ついてなわね。荷物は残念だったけど、怪我がなくて良かったわ」

「ああ……他に聞きたいことはあるか?」

「いいえ」

彼の事情はだいたい察した。

サウラン辺境伯領の南端には、乾燥地帯が広がっている。

本来人の住み辛い地域なのだけど、サウラン辺境伯様は、地下水を発掘し、水路を整備し、大きめの街を作っていて、その技術を学びたいと、同じような乾燥地帯に住む人々が集まっていると聞いていた。

けれど他国の人に技術を教えるのを嫌う人もいて、時々トラブルが起きるとか……ライは運悪くそれに巻き込まれてしまったのだろう。

盗賊にも遭遇するし、ライって結構ついてない。

そんな事を考えながら、私は言った。

「あなたをミント村に案内するわ。私はエリカ・クレッグ。ミント村の領主、クレッグ子爵家の長女よ。ちょっと事情が有ってミント村に住んでいるの、よろしくね」

ライは今日一番驚いたように、瞠目する。

「子爵令嬢?」

「そう。でもそんなに畏まらないでね、村のみんなもそうだから」