彼は気まずそうに答えた。

「ちょっとトラブルが有って」

「……ちょっと、とは思えないけど、荷物も何も持ってないみたいだし、旅する格好に見えないわ」

警戒する私に、彼は困った様な顔になる。

「荷物は途中で無くしたんだ。だから無一文。どこかで労働して日銭を稼ごうとしたけど、村すら無くて困ってたんだ」

「まあ、この辺りで栄えているのは、辺境伯様の領地だけだから」

「そうみたいだな。でも近くに村があるんだろう? ミント村って言っていたな、悪いんだけどそこまでの道を教えてくれないか?」

「え? ミント村に行く気なの?」

「ああ。そこでしばらく働きたい」

なるほど、さっき言っていた日銭を稼ぐって事を、ミント村でやるつもりか。

ミント村には畑が沢山あるから、日雇いの仕事はあるだろう。
だけど、彼を村に連れて行っていいのだろうか。

だって明らかに怪しい。トラブルとやらにミント村が巻き込まれるのは困る。

でも、簡単に駄目だと突き放す気になれない。
そう感じるのは彼本人が良い人に見えるからだろう。

少し悩んでから私は口を開いた。

「あなたの事を話して貰う事は出来る? 何か事情が有りそうなのは分かるけど、身元不確かな人をミント村へ連れて行く事は出来ないわ」

私の言葉に、彼はほんの少し躊躇ってから答えた。