「どういたしまして、もう大丈夫? 怪我とかは?」

彼は意外そうな表情をしながらも頷いた。

「怪我はない。丸二日飲まず食わずだったせいで、こんな有様だけど」

「二日も?」

私は驚き目を見開く。

二日間も水分無しは有り得ない。気温も高いし相当辛かったはずだ。

一体、どうしてそんな状況に?
この人、もしかして厄介なトラブルを抱えている人?

そう怪しんで疑惑の眼差しを向けると、彼は初めて笑顔をみせた。

「今回は結構ヤバかった。助けてくれてありがとうな」

紫の綺麗な目を細めて笑うのを目にした瞬間、私は小さく息を飲んだ。
なんて、優しそうに笑うの?

トクトクと鼓動が少し早くなる。
そんな動揺を抑えながら、私は問いかけた。

「あなたの事見るの初めてだわ。ミント村の人ではないの?」

「ミント村?」

首を傾げる。どうやらミント村の存在すら知らないようだ。

「ここから一番近い村よ」

「俺はサウラン辺境伯領から来たんだ」

「え、歩いて?」

私は再び驚き、まじまじと彼を見た。

馬どころか荷物ひとつ持っていない、まさに身一つの状態。

「その格好で辺境伯様の領土から来たの? 」

隣の領地と言っても、サウラン辺境伯領はミント村と違って広大だ。

辺境伯様が住む城からミント村までは、馬でも二日以上かかるし、辺境伯領最南の村から来ても馬で丸一日はかかるはず。

装備もなく歩いてくるなんて無謀だ。