「聞こえてはいるみたいね、でも立てないみたいだわ。あなたはミント村の人? 名前を教えてくれたら助けを呼んで来るけど」

彼は倒れたまま顔だけを上げた。
かなり弱っているようで、その小さな動きだけでも辛そうだ。

どこか怪我でもしているのだろうか。

もう少し詳しく様子を確かめようと、顔をしっかり見た私は、目が合った事で固まってしまった。

「……綺麗な目」

彼はどこもかしこも酷く薄汚れているのだけれど、その瞳だけはとびきり綺麗だったのだ。

朝焼けのような柔らかな紫色。
濁りのないその澄んだ瞳は、何を考えているのか私を真っ直ぐ見つめている。

「あの……」

思いがけない事に動揺してしまう。
そんな私に彼が言った。

「……水、くれ……」

「え?……水って……飲み水?」

彼は気力が尽きたのか返事をしない。けれど私は荷物の中から水入れを取り出した。

「これ、どうぞ」

自分で飲めるかな?と心配しながら差し出すと、彼はそれまで倒れていたのが嘘の様に腕を動かし、私の手から水入れをひったくった。
もどかしげに蓋を開き、ごくごくと音がしそうな程勢いよく飲み始める。

水入れは、あっという間に空っぽになってしまった。

呆気にとられていると、彼はむくりと体を起こし、地面の上に直に座る体制になった。

私に空の水入れを差し出すと、頭を下げる。

「御馳走様でした」

さっきまでの掠れていた声と違って、結構しっかりした声だった。