私は慌てて温泉から上がると、準備して置いた服を頭から被る。
それから大きな布でお湯の滴る髪を拭っていると、パリンパリンと木の実の割れる音は大きくなり、やがて樹々の合間から、若い男性が現れた。

背が高くてひょろりと痩せていて、顔も体も服もかなり薄汚れている。

村人の様な服装だけれど、ミント村では一度も見たことがないと思う。

私は警戒して、鞄を引き寄せた。中には護身用に小さな剣が入っているから、いざとなったらこれで威嚇するしかない。

男性は私が目に入らないのか、躊躇いもなく近付いて来る。
その足取りはやけにフラフラとしていて、ますます怪しく感じてしまう。

訝しんでいる内に、私の横を通り抜け岩場に座ると、ぎこちない動きで手を動かした。

水をすくう時の様に、両手を合わせて温泉に手を入れる。

その瞬間、ビクリと身体を震わせ、まるで力尽きたかのように倒れ込んでしまった。

「え?……ちょっと、大丈夫?」

この人何なの?と思いつつも倒れている人を無視は出来ない。

恐る恐る近付き声をかける。

「ねえ、大丈夫? どこか具合が悪いの? 」

ここで初めて私の存在に気付いたのか、男性の身体が大きく揺れた。