私、エリカ・クレッグはトレヴィア王国の貴族クレッグ子爵の第一子として生まれ育った。
家族は子爵の父親と妹のエミリー。
我が家には男の子がいないので、私が婿を取り家を継ぐ事が決まっていた。
その相手が、今まさに私の妹に告白をしていた、アクロイド侯爵家の三男レナードだ。
レナードは私と結婚して、このクレッグ家の当主になる……はずだったのに、まさか妹と浮気をしていたなんて。
段々と怒りがこみ上げて来た。私はずんずんと足音荒く二人に近づいて行く。
でも怒っているとは言っても私は冷静に振る舞わなくては。決して怒鳴ったりはしない。
どんな時でも冷静にと、次期当主夫人としての教育を受けているのだから。
「浮気されたくらいで取り乱したりはしないわ」
自分にそう言い聞かせ、盛り上がっているふたりをしっかりと見つめる。
まずは、二人にこうなった経緯を聞き、場合によってはお父様も呼んで話し合いをしなくては。
そう考えていたのだけれど、私は自分が思っていたより頭に血が上っていたようだ。
なぜか温室の床に落ちていたバナナの皮を不注意にも踏んでしまい、足を滑らせ派手に引っ繰り返ってしまったのだ。
「ぎゃあ!」とおよそ貴族令嬢とは思えない断末魔のような自分の悲鳴を聞いたのを最後に、意識を暗闇に包まれた。