私は繋いであった馬に向かおうと、立ち上がった。
ライが居なくなってから、練習を初めて少しは乗りこなせるようになっていた。

カサカサと落ち葉を踏みながら歩いていると、「エリカ」と声をかけられた。

私は信じられない思いで足を止め、恐る恐ると振り返る。
決して聞き忘れる事のない声。だけどここにいるはずがないのに……。

振り返った先には、艶やかな黒髪に印象的な紫の瞳の、信じられないような美青年が佇んでいた。

だけど直ぐに視界が歪んで来て、よく見えなくなってしまう。

「……なんでいるの?」

そう呟く声は自分でも信じられないくらい弱弱しく震えていた。

「エリカに会いに来たに決まってるだろ?」

ライの声も震えているように感じた。

大公のライがどうして私なんかに会いに来るの?
ひとりでこんな所をウロウロしていて大丈夫なの?

聞きたい事は沢山あるはずのに、私が口にしたのは全然違う言葉だった。

「ライ……会いたかった。何も言えないで別れた事をずっと後悔していたの……本当は離れたくなかった。ライに側にいて欲しかった」

もう出し尽くしたと思っていた涙が後から後から溢れて来る。

私のその姿に驚いたのか、ライが駆け寄って来て、そのまま強く抱きしめられた。

「エリカ……」

ライの戸惑いが伝わって来る。

私がこんなに弱っているなんて思っていなかったのかもしれない。

「ライ……」

ぎゅっと強く抱きしめ返す。

今だけは身分やしがらみなんて考えないでライに縋っていたい。

私はいつからか、本当に弱くなってしまったみたいだ。


しばらく泣いていると、ようやく気持ちが落ち着いて来た。

同時に恥ずかしさがこみ上げる。

なんて言う情けない姿を見せてしまったのだろう。

身体を離しながらも、顔を上げられない私に、ライが優しく声をかけて来た。