涙が浮かびそうになるのを必死にこらえた。
きっと昨日までの私なら大喜びしただろう。だけど真実を知った今は喜べない。

「でも、もう無理でしょう? ライがそう望んでも周りは放っておかないわ。いずれオリバー様だけでなく、他の人もライを迎えに来る……ライは自分の本当の場所に戻らないといけないわ」

胸が痛くて苦しくなる。

訪れた沈黙が辛くて、平静を装うのも限界になりそう。

あと少しで泣き出しそうな時にライが言った。

「……エリカは俺がいなくても大丈夫?」

顔を上げると、ライが私を見つめていた。


大丈夫な訳がない。今だって涙が零れそうなのに。

だけど私に本心を言う事は出来なかった。

「大丈夫。ライが居なくなったらこの温泉リゾートは大変になると思うけどど、なんとかやって行くから」

そう言うと、ライはとても悲しそうに微笑んだ。

「そうだな。エリカの幸せはこの温泉リゾートを盛り立てて行く事だもんな」

「……うん」

「離れても何か支援出来るように考えるよ。受けた恩は忘れないから」

「ありがとう、でも気を遣わなくていいから。ライの暮らしは今とは変わるでしょう?」

大公家に入ったら、こんな小さな田舎の宿の事なんて気にしている暇はないはず。

「ライ……今までありがとうね。凄く助けられていたわ」

口を開くごとにライとの別れが決定付けられていく。


心を削られるような痛みに耐えながら、三日後に私はライを見送った。