目が覚めた時に視界に入ったのはライの心配そうな顔。

起きた私に気付くと凄い勢いで、大丈夫か? と聞いて来た。

その様子はいつものライで、フォーセル大公家の御曹司とは思えなくて、こんな時なのについクスリと笑ってしまった。

ライはそんな私に戸惑いを浮かべながらも、言う。

「エリカ……本当にごめんな」

「うん……もういいよ」

ライもきっと私を傷つけたくて騙した訳じゃないんだ。

それは彼と過ごした日々を思い出せば分かる。

そんな風に思える程、私にとってライは身近な人だった。

「オリバー様は?」

「あいつにはしっかり制裁を加えた。しばらく動けないんじゃないか?」

「制裁? 動けない?」

オリバー様、大丈夫なのだろうか。

安否を気にしていると、ライが私の手をそっと握って言った。

「エリカ、本当の事を言えなくてごめん。エリカといる事が心地よくて今の関係を壊したくなかったんだ」

「……精霊の加護の事はいつ思い出したの?」

そう問えば、ライはさらりと言う。

「ああ。エリカと会ってわりと直ぐに」

「はあ?」

じゃあ、とっくに思い出していたって事じゃない。

「二度目に温泉に入った時だったか、突然頭がクリアになって思い出せた。でもさすがにその事は言い出せなかったけど」

「まあ、精霊の加護の事は本来他人に言わない事だものね。でも、どうしてミント村で働き続けたの? あんな風に飛べるなら山越えも楽でしょう?」

旅費も少なくて大丈夫だと思うのだけれど。

「最初は戻りたくなかったからってのが大きいな。サウランに戻ってもフォーセルに戻っても結局争いに巻き込まれる。エリカには故郷に帰るって言ったけど、本当はトレヴィア王都を目指そうと思ってたんだ」

「そうなの? それなら方向は間違ってなかったのね。ミント村はトレヴィアへの道中だもの」

「ああ。カミルも言っていたと思うけど、トレヴィアにも俺たちの親類がいるんだ。そいつに頼めば仕事には就けると思った。それでトレヴィア迄の旅費を貯めようとミント村で働く内にエリカとも親しくなって、だんだんここが好きになった。いつのまにか叶うならずっとここで暮らしたいと思っていた。でもカミルに見つかってそうもいかなくなったんだけどな」

「ここで暮らしたいと思ってくれていたの?」

「ああ。できればずっとここに居たかった」

「そっか……」