「それでライがどうして戻らないのか考えてみたんだ。答えは君だったよ。エリカさん、君がいるからライはミント村から離れようとしなかったんだ。本当は精霊の加護の記憶だって戻っているのに」

「え? ……精霊の加護の事、思い出したの?」

思わずライに声をかけてしまう。
彼は何かに迷っているように黙り込んだまま。

「エリカさんがライを引き留めていたんだろう?」

「おい!エリカのせいにするなよ!」

オリバー様はライを気にすることなく、私の様子を伺っている。

「私は……」

はっきりと行かないでと頼んだ事はない。だけど、言動はライを引き留める事に繋がっていた。

だってライがそんな身分の人だなんて知らなった。

それに、どうしても別れたくなかった。
自分勝手な気持ちかもしれないけど私は……。

「エリカさんの事を知りたいと思って話しかけたけど、君は貴族令嬢とは思えない程経営者然としていて、肝心なところが見えなかった。だから無防備な所なら素が見えるかと思って温泉に誘ったんだ。ごめんね、でも下心は無かったからその辺は誤解しないで。それにしてもライがあそこまで激怒するとは想定外だったな」

「いえ、あの……」

ああ、上手く言葉が出て来ない。

一度にあまりに沢山の事を知りすぎてしまって、頭が回らない。

ろくに返事を出来ない私に見切りを付けたのか、オリバー様はライに向けて話しかけた。

「ライ、本当は精霊の加護を思い出したんだろう? だったらフォーセルに帰るべきだ。あの現大公の血筋とは思えないバカ息子が後を継いだらフォーセルは終わりだぞ」

「……思い出していない。それに今の大公は伯父上だ。その息子が後を継ぐのが当然だろう」

「元々はライの方が正当な血筋じゃないか。それに絶対に思い出している。根拠があるんだ」

「根拠?」

「一度使っただろ? あのとき僕は見てたからね、誤魔化しても無駄だよ」

にらみ合うライとオリバー様。

私は口をはさめずにおろおろとするばかり。
するとオリバー様が、私に向けて言った。